走らない人が走り始めるとき (16)

3度めのフルマラソンに備える人 (2021年4月~12月18日)

2度目のフルマラソンを走ったのが2021年の春。記録は4時間9分6秒だった。この時初めて市民ランナーの大きな目標であるサブ4(4時間切り)を意識するようになった。しかし9分縮めるのは並大抵なとではないぞという感覚も同時に持つ。

その時に漠然と考えた作戦は、「シューズをNIKEの厚底のやつに替えて5分、マラソン中に気持ちよく走るためにしっかりマラソン用のプレイリスト(iPhoneの音楽リスト)を作って2分、あとはこれまでの河川敷の草マラソンじゃなくてコロナが明けたらシティマラソンを走れば沿道からみんなの応援をもらえるだろうからそれで3分、合計で10分縮める」という自分のランニング能力そのものの向上を一切棚上げした姑息なものだった。

そして季節はランニングに最も適さない夏に変わり、7月は70キロちょっとしか走らず、8月に至っては30キロ余りというテータラク。その癖新型コロナウィルスはまったく収束の気配がない。10月中旬に出走予定だった東京マラソンは2022年3月に延期が決まり、10月末に予定していた水戸黄門マラソンは中止になった。友人たちはその代わりに、ということで10月下旬に開催された多摩川河川敷のロケットマラソン東京大会に出場したのだが、夏に全然走れていなかった私は出走を回避。しかしこのまま年を終えるのは寂しいと思い、UP RUNという組織が主催している別の多摩川河川敷マラソンにエントリーした。

夏の間全然走らなかった癖に、記録を10分縮めるプロジェクトの方はちゃくちゃくと進めており、ちゃっかりNIKEの厚底シューズ(廉価版のZoom Fly 3という靴)を購入。自分が好きでかつテンポの良い曲ばかりでマラソン用のプレイリストも作成した。しかし、シティマラソンの開催だけは自分の力ではどうしようもない。最後の手段で、というか本来なら真っ先に取り組むべき走力の向上にもいちおう向き合うことにしたのである。

マラソンの開催日は12月19日。その日に向けて愛用しているスマホアプリ「Runkeeper」でサブ4を目指すためのトレーニングメニューを組もうとするが、ここでいきなり問題が生じる。Runkeeperのフルマラソン向けメニューは最低でも12週間が必要なのだが、12月19日まではもう10週間しか残されていないのだ。しかたがないので12週間のトレーニングメニューを作成し、最初の2週間分を省いて3週間目からのメニューをこなしていくことにした。

こうして週に3回、スピード練習、長距離走、回復のためのリラックス走を10週間繰り返し、そしてレース前日には朝から最終調整で5キロをゆっくり目に走って、準備を終えたのであった。

その日の夕飯は以前から家族から好評を得ているギョウザを作った。ギョウザは作る工程がけっこう長いので、午後3時くらいから缶ビールを4本くらい呑んでしまい、みんなでいただきますをする頃にはけっこう気持ちよくなっていた。

食後にいつものようにウィスキーを呑むかどうか迷ったが、呑まないことによるストレスのほうが明日のレースに悪影響を与えるだろうと判断し、ダブルで3杯ほど。ただし明日の朝にアルコールが残らないよう、健康診断の前日方式で夜9時半くらいで切り上げて夜10時には布団に入った。