妥協のない欧州の旅 (2)

12月31日 ロンドン→アムステルダム

12月31日(水)
午前6時起床。6時半にチェックアウト。タクシーを呼んでもらってセント・パンクラス駅へ。あたりはまだ真っ暗だ。駅でルートン行きのチケットを買い、朝食のサンドイッチとコーヒーも買って、電車に乗り込む。乗車時間は約30分。車窓から見える空は今日も曇っている。ルートン駅から空港までタクシーで10分。ここからいよいよアムステルダムへ向かう。

今日利用する航空会社は、ヨーロッパ内移動の強い味方、EasyJetである。無駄なサービスを一切省いている。軽食とか飲み物も一切でない(機内販売はあるので買うことはできる)し、席が指定されていない(つまり早いもの順に座る)。その代わりに安い。フライトアテンダントのお姉さんもえらいカジュアルで全然フライトアテンダントに見えないのがいい。機長のアナウンスもえらくくだけていてホンマにこれで飛ぶんかいなと一瞬不安にさせるくらいだ。

が、この日もそうした不安を一掃させるようにきちんと離陸し、30分ほどでオランダ、アムステルダムのスキポール空港に着陸した。スキポールは非常にきれいな空港である。当たり前の話だが全ての掲示板がオランダ語と英語の2つになっていて、オランダ語表示を初めてみる私には新鮮に映る。みんなやたらに背が高い。

時差が1時間あるので荷物を受け取って空港の外に出たのが正午頃。曇り空。かなり寒い。シャトルバスに乗り込み、市内の中心部にあるアメリカン・ホテルへ。運転手は『ダーティー・ハリー』の頃のクリント・イーストウッドみたいなおじさん。運転は強引だが親切な人だった。

雑誌等で読んだことがあったがここオランダは「脱自動車社会」を推進している国で、歩道と車道の間にはかなりの広さの自転車専用道路があり、またアムステルダム市内は路面電車がきめ細かに走っている。東京や大阪もこの都市を参考にできるんじゃないか。

数十分でアメリカン・ホテルに到着。チェックイン。明るくて広いいい部屋である。一休みしてホテル内にある”CAFE AMERICAIN”で昼食。天井が高く、一枚一枚の窓が大胆なほどに大きなカフェ。装飾も美しい(文化財に指定されているそうだ)。私はハンバーガー、妻は豆のスープを注文。ハンバーガーはバンズ、肉、チーズ、野菜、ポテトと素材がすべて素晴らしく、めちゃくちゃ美味かった。ただ量が多すぎて食いきれん。妻曰く豆スープのほうも絶品だったそうである。

腹が満たされたところで散歩がてらに外出。10分ほど歩くと国立ゴッホ美術館がある。けっこう混んでいた。有名な「ひまわり」「寝室」などもあるが、どの作品をとってもこりゃゴッホでしかありえないと思わせるのは、やはり彼の強烈な色彩感覚と筆遣いによるものであろう。狂気に蝕まれる以前の、信じられないほど優しげな風景画を観ていると心が安らかになるのであった。ゴッホが収集していた日本の浮世絵の展示や、ゴッホによる浮世絵の模写も展示されていて、こちらも面白かった(そういえば昔中学校の美術の教科書に載ってたなあ)。

が、ここで事件発生。美術館内で突然便意を催して、慌ててトイレに駆け込み用を足していたのだが、あまりの突然さに動揺して鍵をかけ忘れていたため、巨漢のオランダ人に思いっきりドアを開けられ、非常に情けない姿を晒してしまったのである。のみならず、想像以上に大量に排泄された大便はいくらがんばっても全く流れ去ってくれない。このままでは大便混じりの水が溢れ出して更なる大惨事に発展すると判断した私は断腸の思いでそのまま放置して再び何食わぬ顔でゴッホを鑑賞し続けたのであった。ゴッホ美術館の関係者の皆さん、本当に申し訳ない。一番奥の大便器を詰まらせたのは私です。

以上、時効となった今だからこそ告白できるエピソードであった(←全然時効になってないって)。

美術館を堪能して外に出るともう薄暗くなり始めている。”Small Talk”という名の、これまた歴史のありそうな渋いカフェに入ってコーヒーを啜り、ホテルに戻ったのが午後7時。寒さのせいか二人とも疲れがドッと出て寝入ってしまった。

午後10時頃、花火の音で目を覚ます。そうか。今日は大晦日なのだ。こりゃ寝ていてはもったいないぞ、外に出よう出ようと慌ててコートを着てホテルを出ると、もう街中大騒ぎである。とりあえず近くの(なぜか)アルゼンチン風ステーキハウスに入ってステーキとフライドポテトとビール(そういえばオランダはHeinekenの看板がそこらじゅうに出てました)。これまた美味。

腹一杯になって通りを練り歩き、ダム広場という大きな広場に出るとそこはもう狂乱状態。巨大なステージが組まれてDJがテクノをかけまくり、阪神優勝時の大阪道頓堀もかくやと思わせるほど人が集まり、花火は上がるわ爆竹は鳴るわサーチライトは交錯するわビールとワインとシャンパンが入り乱れるわタバコの煙とマリファナの香ばしい匂いに満たされるわ(オランダはマリファナの所持や摂取が認められている)の大騒ぎである。

しばらくするとちょうどカウントダウンが始まった。この狂躁的な場ほど、われわれ夫婦の2003年を締めくくるにふさわしいところはないかも知れぬ。一緒になってカウントダウンを叫び、そして2004年が始まった。

結局ホテルに帰ったのが午前1時頃。バーでジェネヴァーというオランダのお酒を呑む。このお酒がイギリスに渡ってジンになったそうで、たしかに味がジンと似通っている。だが、ジンよりもあの独特の香り(ネズの実の香り?)が抑えられていて、もっとアルコールそのものの味が濃厚。冷やしてあって、小さなグラスでストレートで呑む。なんだか日本の焼酎に近いような気がして私はえらく気に入った。アルコール濃度が高く、少しでもけっこう酔いがまわる。ほろ酔いで部屋に戻って即睡眠。