虚々実々新聞 第5号 (01/15/1997)

「カトちゃんヒゲ」事件その後

「カトちゃんヒゲ事件」。N田社員がF形社員の名札の写真にマジックでヒゲを描いたという、まさに血で血を洗う凄惨な事件の顛末は本紙第三号でもお伝えしたとおりである。その後、表面上両者は友好的な態度をとっていたのだが、最近ふたたび二人のあいだに冷たいすきま風が吹き始めている。

事の発端は、先日N田氏がノート型パソコンを購入したことにある。アキア社製の「トルネード513M」というかなりの高級機を買った彼は、職場のデスク上に同機を置き、精力的に仕事に活用しているらしい。
 
同機を購入以来、N田氏はマックユーザのF形氏に対し、
  
「マックなんてしょせん泡沫の如く消えてなくなる運命。やはりいまはDOS/Vマシンの時代じゃないの?君のマシン、ハードディスクはいくら?えっ。255メガだって。わっはっはっは。いやいやいや。あっそう。私のなんか1.35ギガなんだよねえ。ま、君のマシンが一杯になったらいつでも声をかけてよ。私のマシンの場所を貸してあげるからね。あっ。ごめーん。君のはマックだったっけ。だったらちょっと無理だなあ。わーっはっはっはっは」

などと執拗に挑発を続けていた。
 
数カ月前からノート型パソコン購入を思い描きつつ、予算の都合から躊躇していたと思われるF形氏も、N田氏の挑発がバブル期における不動産価格の如くエスカレートするに及び、ついに購入を決心。二、三週間ほど前から具体的な機種選定に入っていた。そして先日、コスト面、性能面を考慮するとやはりアキアのトルネードが最適との決断を下し、購入を果たした模様。

これについてN田氏は、

「あいつの猿マネにはほとほと参ったよ。いくらおれが羨ましいからって、よりによって同じ機種を選ぶとは、呆れてものも言えないね。ま、コンピューターを使うのはあくまでも人。おれとあいつを較べれば人間としての格が違う。それはもう、ビートルズとずーとるびくらいに違う」

とF形氏に対する軽蔑の色を隠さない。対するF形氏は、

「アキアの選定理由はひとえに製品の完成度によるもの。N田氏の誹謗中傷は的外れも甚だしい。今後の状況次第では法廷闘争も辞さない覚悟だ」

と声を荒げる。

なお、F形氏のDOS/Vマシン購入の事実が明るみに出るに及び、コンピューター業界には早くも波紋が広まっている。

マイクロソフト社のビル・ゲイツCEOはサンフランシスコ市内のホテルで催された立食パーティーにおいて、

「われわれにも顧客を選ぶ権利があるということをここではっきりさせておきたい」

と語ったあとバーボンをストレートで立て続けに四杯あおり、周囲の人々に当たり散らした後、二度吐いたという。

また、アップル・コンピュータ社のギルバート・アメリオCEOは先週月曜日の社員向け朝礼のなかで以下のような注目すべき発言をした。

「これまでわが社は二つの大きな問題を抱えていた。次世代OSコープランドの開発の遅れと、ミスターF形のアップル社製品使用である。ミスターF形がDOS/V機を購入したことは、わが社の苦難に満ちた経営のなかに射し込む一条の光明であり、競争の激しいアジア市場のなかに咲いた一輪のバラである」(拍手)

さらに、「F形氏がDOS/V機を購入したことが、スティーヴ・ジョブズ氏のアップル社復帰を決断する最大の要因となった」 (関係者筋) との観測もある。

いずれにせよ、F形氏が使用する機種のライバル機がデファクト・スタンダードを握る、という噂が業界ではまことしやかに喧伝されており、今後も氏の動向からは目が離せない。