虚々実々新聞 第6号 (02/23/1997)

炎を呼ぶ営業マン

某大手通信会社W歌山支店の業務車両が炎上し、爆発寸前にまで至っていたことが本紙独自の調査で明らかになった。

平成八年十一月某日午後、W歌山支店営業部所属のA池氏 (25) とN田氏 (24) の二人は商品提案のため市内にある某学習塾を訪問していた。

支店内において「できるビジネスマン」の名声をほしいままにしていると自負する二人は、ISDN回線による塾間ネットワークの構築やテレビ会議システムを使った遠隔教育などを提案、かなり優位のうちに話を進めることに成功していたらしい。

「きわめてなめらかなビジネストークだった」

当日の商談の状況をN田氏は回想する。

「ではまた、マルチメディアワールド (同支店が運営するマルチメディア体験コーナー) へもお立ち寄りください」と決めゼリフを残して帰り支度をする二人。その姿は「まるでバドワイザーのCMに出てくるビジネスマンのようであった」 (学習塾社員)。

しかしここで事態は急転する。颯爽と車に乗り込んだものの、イグニッションはまったく反応を示さなかったのである。数分間の空しい努力の後、A池氏は商談先に駆け戻り、先とはうってかわった蚊の鳴くような声で塾経営者を呼びだし、バッテリー接続を依頼した。自信に満ち溢れた経営者とやや猫背気味にかぼそい声をしぼりだすA池氏は、

「残念ながら好対照をなしていたと言わざるをえないだろう」

N田社員はうつむき加減に感想を漏らす。

なお、この瞬間、塾側と通信会社側のパワーバランスは、82対18から6対94へと激変したことが確認されている (虚々実々リサーチ社調べ)。

さらにここで第二の悲劇が起こった。この塾経営者が接続したケーブルはあろうことかあるまいことかプラスとマイナスが逆さになっていたのである。ほどなくして接続部分から黒煙があがった。

「実のところ、バッテリー接続とはそういうものかと思っていた」

思慮と経験の浅さを露呈するこの発言が示すとおり、何の措置をとろうともせず接続部分を凝視するN田氏。そしてそれを嘲笑うかのように煙はやがて炎となり、現場は阿鼻叫喚のるつぼと化した。

最悪の事態となるに至って、両社員はやむなくJAFに連絡を入れた。

「寒空のなかでJAFの到着を待つ三十分は、我が人生最長の三十分だった」 (N田氏)

重苦しい雰囲気を断ち切ろうと、N田氏はここで「身も心も寒いとはまさにこのことッスね」などと中途半端な発言してしまい、両人の体感気温がそれぞれ摂氏2度づつ低下していた事実も見逃せない。

JAFの応急処置により事態は一応の収拾をみたが、帰途の車中においてN田氏はさらに「こんなことじゃあうちの会社もまさに火の車って感じッスね」と発言、

「このときA池氏の体温が生命を維持できる限界のラインまで低下したことは明らか。N田氏の軽率な発言には怒りを覚える」

とは日頃から病弱と噂されているA池氏を担当する主治医、一本糞のりお氏の談である。

二人の直属の上司であるM島主査も対応に苦慮しており、近々行われるW歌山支店営業部の再編を機に大胆な人事刷新が行われることは間違いないものと思われる。またある郵政省高官も、先に行われた定例記者会見上で

「(この問題に関して)重大な関心を抱いている」

と発言しており、長年の懸案となっている同社の分離分割問題において、この事件をちらつかせつつ大幅な譲歩を迫ることは必至と目されている。

不祥事のあいつぐW歌山支店営業部では、この事件を闇に葬り去るべく数々の対応策を講じていたが、今年に入って虚々実々新聞本社宛に匿名の投稿が寄せられことが発端となり今回のスクープとなった。