(1) 麺屋武蔵(新宿)

支店:青山一丁目、池袋、上野御徒町

泣く子も黙る21世紀東京ラーメン界を代表する超有名店。もはや、その知名度は東京というローカル区に留まることなく、全国区に到達したと言っても過言ではない。また、中野の「青葉」とともに、今世紀の初め、全く新しいラーメンのジャンルとして登場した「ニューウエーブ系(※)」の先駆けでもある。その御威光は絶大であり、ラーメンの味から店の外観に至るまで、多数の後進のラーメン店に絶大な影響を与えていることは周知の事実。

私見になるが、僕も「武蔵」の登場が、現在の東京ラーメン界に決定的な影響を与えた可能性が高いと考えている。とりわけ、店構えなど店の外観については、「武蔵」がその後に登場する各ラーメン店の良きお手本になったことは否めない。

僕は、関西からの上京以来、10年間にわたって色々なラーメンを食べ歩いてきたが、大まかに言えば、前半の3,4年間、つまり「武蔵」が登場する前までは、どちらかというと少々汚くてワイルドな雰囲気を醸し出す店舗が人気店の主流だったのに対し、「武蔵」の登場以降は、清潔で小洒落た雰囲気の店が主流になったとの感覚を抱いている。そしてそれはラーメンというジャンルの「食」が、今までラーメンを敬遠していた女性やカップルにまで浸透していった時期と軌を一にするのではないかと推測しているのだが、深読みだろうか。

まぁ、その他にも「武蔵」という1ラーメン店が残した輝かしき業績は枚挙に暇がないほど存在し、それを全て書いてしまうと優に1冊の本ができるくらいなので、これくらいに留めておくが、この店が名実兼ね備えた正真正銘の名店であることは否定することのできない事実である。

その証拠に毎週、土曜日の昼時ともなれば、「武蔵」の味を求めてどこからともなく人々が殺到し、蟻の行列さながらの大行列を作る。それがほんの一時期だけのことならそんなに大袈裟には騒がないが、武蔵については、ここ2,3年もの間「ずっと」そのような状態をキープしているのだから、大したものである。待ち時間は、ピーク時でおそらく1時間強。これは、日本一長い待ち時間(ピーク時2時間弱)を誇る東池袋「大勝軒」や目白の行列店として有名な「丸長」とも比肩しうるものである。

場所は、御存知の方も多いとは思うが、簡潔に。新宿西口小滝橋通りを職安通り方向に向かって直進すると、右手に書店が見えるが、それを素通りし、コンビニ先の薬局を左折したところにある。まぁ、大行列が目印になってくれるとは思うので、迷うことはないだろう。

僕にとっても、「武蔵」は、ニューウエーブ系の典型的なラーメンを思い出すためのひとつのよきサンプルであり、今でもたびたび利用させていただいているところである。ただし、行列が苦手な向きは、青山1丁目の支店を利用する方が便利。そちらは、新宿に武蔵ができる前は本店だったのだが、新宿店の完成後は支店となっており、立地上、新宿よりも行列がかなり短い。混雑時でも、30~40分待ちで待望の一杯を食することができる。特に狙い目は、平日の夜8時以降。運が良ければ、行列なしでありつくことが可能である。

味については、詳しく書いてあるものがあるので簡潔に記すに留めるが、オリジナルラーメンの「サンマの煮干し」を材料に使うスープが有名。あと、コッテリ、アッサリの指定が可能であるが(元々、常連がリクエストしたものであるが)、コッテリを注文すると、桜エビのエキスが入り、魚介類をベースとしたスープの深みが格段に増すので、個人的にはコッテリがお薦めである。ただし、魚介類系をベースにしたラーメンを食べ慣れていないと、「武蔵」のスープの妙味は味わえないのかも知れない。ゆえに、個人的には、一度に留まらず、数回通い、その後で評価を下していただくことをお薦めしたいが、さすがに全国区の「武蔵」だけあって、飽きの来ない深遠さがあり、いつ行っても改めて感心せずにはいられない。

麺は、中太縮れ麺でコシが良く、スープとの絡みも流石の一言。具のチャーシューも最近ではさほど珍しいものではなくなったが、質の良い豚肉を惜しげもなく使用しており、柔らかくて美味である。味付け卵を注文すると、更に良し。

評価はオリジナルのコッテリで(1)麺13点、(2)スープ17点、(3)具4点、(4)バランス9点、(5)将来性8点の計51点。

長い行列を耐えるに十分に値する評価である。新宿界隈では、間違いなくトップクラスの名品だろう。少々個性は強いが、品の良い紳士淑女を思わせるイメージの一杯である。それにしても、「武蔵」の味を模倣し、改良した麺を提供する他店が続出する中で、数年間にわたってこの評価を維持してきた実力は感嘆に値する。

ちなみに、この店が提供する季節限定メニューや期間限定メニューもフリークをはじめとする通からの評価が高い。隠れた人気メニューである。新宿店限定メニュー、青山店限定メニューなども存在し、それらはそれぞれの店でしか食べることができないものなので、僕も限定メニューにありつくために新宿店の行列に参加することもあるくらいである。


(※)いわゆる、既存の「醤油」「味噌」「塩」「豚骨」などの味別の区分や「札幌系」「旭川系」「和歌山系」などの土地別の区分を超えて、店主の才覚や発想によりその店独自の味を創出することに成功した系統のこと。最近のラーメン屋には、他店や既存の味の物真似ではなく、店主それぞれの個性(オリジナリティー)が求められているのである。