妥協のない欧州の旅 (8)

1月6日 ロンドン

1月6日(火)
9時起床。10時に外出。イングリッシュ・ブレックファストを食べようということになり近くの食堂で朝食。トースト、目玉焼き、ベーコン、ベークト・ビーンズ、マッシュルーム、ハッシュト・ポテト、トマト、コーヒー。

朝食後は今日も夫婦別行動である。私は昨日に引き続きショッピング。インディアナの厳しい冬を乗り切るためのコートを探して、コヴェント・ガーデン、ソーホー、ピカデリー・サーカス周辺を歩き回る。結局フレンチ・コネクションで購入することにした。

昼食はレスター・スクウェア近くのバーガー・キングで。バーガー・キングなどアメリカでも嫌というほど食えるではないかと言われそうだが、好きなんだからしかたがない。その昔、JT(日本タバコ)が日本国内でのバーガー・キングの営業権を取得し、首都圏周辺に20店舗程度を展開していた。しかし当時住んでいた関西には1店もなく、業を煮やした私は”バーキン”フリークの友人たちと「バーガー・キングの関西進出を待望する会」(略称:BKT)を結成、JTに嘆願運動をしようとまでしたくらいである。その後JTの中途半端な戦略のために結局バーガー・キングは日本を撤退してしまった(あれ。高田馬場には残っているんだろうか)。まことに嘆かわしいことである。あれほど美味いのに。

あ。また話がそれた。それはともかくとしてこの日食べたワッパーも当然のことながら美味かった。

結局昼食を挟んで夕方までずっとロンドン市内を放浪。それにつけてもジャーミン・ストリート周辺の、紳士物のスーツ、シャツ、ネクタイや靴を扱うブティックの豊穣なことよ。そりゃロンドンの男どものスーツ姿がビシッと決まっているのもむべなるかな、である。お気に入りのシャツ屋であるPINKでシャツとネクタイを買おうかどうしようか迷ったが、よく考えたらインディアナに戻って着る機会などほとんど皆無だ。結局ウィンドウ・ショッピングのみに留めた。

午後5時半。ホテルに戻って妻と合流し、再度外出。地下鉄でコヴェント・ガーデン駅へ。駅近くのレストランで夕食。妻は肉料理。私は魚料理を注文。この店はモダン・イングリッシュ・パブとでも言えばいいのか、従来のイギリス料理をがんばってアレンジしたような感じ。けっこう美味いし、店員も身のこなしがなかなかスマートでイケてる。

なんというかイギリスは8年前に較べて全く変わったような気がする。まず街がずいぶんきれいになった。特にメインストリートなどほとんどゴミが落ちていない。空気もかなりきれいになったようだ。学生時代にロンドン市内を1日中歩いてホテルに戻ってくると、顔が(大げさじゃなく)黒くなっていたものだ。鼻の穴なんかもほんとに真っ黒に汚れていた。地元の人たちの愛想もえらくいいし。もっと無愛想じゃなかったっけか。どうしたんだイギリス。嬉しいような残念なような。

レストランを出て、今夜はVaudevilleという劇場で非常に遅まきながらではあるが”STOMP”を観る。日本にも何度か来ていたSTOMPだが、なかなか公演を観る機会がないまま今日に至っていたのである。午後8時開演。これは行って良かった。ご存知の方も多いと思うが、STOMPはメンバーたちが日常生活で使うさまざまなモノ(ゴミ箱、ゴミ箱のフタ、紙袋、モップ、ライター、イス等々)を叩いたり、振ったり、こすったりして楽器に変えてしまい、それらを使っていろいろなパフォーマンスをする。彼らの音を聴いていると、体の奥底に眠っている原初的なリズムが揺さぶられるような思いがした。観客全員が興奮してくるのがわかる。とくに後ろの席に座っていた子供達は大喜びしていた。なるほどなあ。もし子供ができたら、まずはこういう公演から「シアター慣れ」させていけばいいのかもしれん。公演時間の1時間半は文字通り一瞬で過ぎてしまった感じ。ギャグも冴え渡っていた(あらゆる人種、あらゆる年齢層にウケるのがすごい)。個人的にはゴミ箱やモップといった派手なものより、ライターや紙袋、ビニール袋といった小道具を使った静かなパフォーマンスが気に入った。これは時間をあけてもう一度行ってみたい公演である。

公演後、バスに乗ってホテルに戻る。深夜にテレビをつけると、なんと『西遊記』の吹き替え版をやっているではないか。私が幼稚園とか小学校の頃に毎日観ていたあの『西遊記』である。孫悟空役の堺正章、わ。若い。沙悟浄が岸部シロー。わ。わ。若い。借金疲れしてない。猪八戒がなべおさみ、あれ。猪八戒は西田敏行じゃなかったか。あべしずえとかも出てる。わ。わ。わ。若い。そして極めつけが夏目雅子。めちゃくちゃ美しい。ロンドンで観る『西遊記』というのも超現実的である。かなりハイセンスなギャグもあって爆笑。チャンネル4、あんたはえらい。日本でも再放送してくれないものか。