会社を休んでチベットへ行こう (2)

旅行1日目 広州へ

朝5時50分に起床、6時10分頃に家を出て、23分の渋谷方面行きの田園都市線に乗り、渋谷で成田エキスプレスに乗り換え、8時頃成田空港に着いた。パスポートや航空券はカウンター引渡しになっていたため、空港に入る際のパスポートチェックに手間取るかと思いきや、免許証を見せてあっさりパス。年末年始に台湾に行った弟から教えてもらったスムーズな経路で、あっという間にカウンターに着いた。

カウンターの男性職員から書類一式を受け取った後、チベット行きのせいか団体旅行用のせいか、チェックインのため、かなり外れた所に位置するカウンターに行くよう指示され、ようやくボーディングパスをゲット。通路側を確保することも抜かりなく、マイレージの登録も終え、出国手続きも済ませ、ダイアル式キーと正露丸を購入し、10時に広州に向けて旅立った。

広州までは約4時間。『項羽と劉邦』を読んだり、寝たりしているうちに、あっという間に着いた。ここで中国の国内線に乗り換えるのである。初めての中国本土だったが、矢印に従って進むと、難なくガイドに会えた。「こんにちは、お疲れ様でした」。随分と流暢な日本語である。聞くと独学らしい。立派なものだ。しかも色んなことを教えてくれる。「サーズはそれほど市民生活に影響を与えていない」「広州空港は、既に老朽化が激しく、町中に位置していて騒音苦情も絶えないので、近々移設する予定」等々。確かに、建物は古い。しかも国内線と国際線が別建物である。またどういうわけか国内線の方が圧倒的にでかい。

国内線のカウンターに着くまで10分ほど歩いたが、その間やたらと目に付いたのが、「サーズの疑いがある方は、下記に連絡ください」といった内容の標識と、果物売り場である。また携帯電話がやたらと普及していて、しかも利用頻度が高い。対面会話ならば、片方が話している間はもう片方は黙っているので、居る人の半数以下は口を閉じている計算だが、携帯電話の場合、利用頻度が高いと、人の数だけ口が開くので、元来中国人の声が大きいこととあいまって、その喧騒感たるや半端じゃない。国際線の建物と国内線の建物とでは、明らかに文化が違う。途中、空港前の一般道路を見ることができたが、自転車で走行している人はあまりいなかった。携帯電話の普及ぶりを見ても、どうやら中国に対する僕の先入観は、もはや過去の遺物なのかもしれない。

国内線のカウンターに着くと何だか人がひしめき合っている。様子を見るに、団体旅行のチェックインをしているようである。しかしその手続きたるや、誰かが皆を取り纏めて行えばいいのに、団体の客全員が縦横無尽にカウンターを取り巻いてめいめいが無秩序に手続きを求めるので、とんでもないことになっている。5分経ち、10分経っても、一向に事態は解消しない。そうこうしているうちにその団体と僕たちの間に居た若くてきれいな女性が、携帯電話に向かって吠え始めた。おそらく電話の相手と喧嘩でもしているのだろう。魑魅魍魎とした状況に、同じ中国人とはいえガイドもさすがに呆れたらしく、僕の手続きを隣のカウンターでやってもらおうと移動していった。しかし程なく頭を横に振りながら帰ってくる。「クライアントには預ける荷物がないから手続きしてもらえないかと頼みに行ったのですが、「私はビジネスクラスが担当です」と言って取り合ってくれない」とのこと。縦割りの弊害である。

30分近く経ってようやく順番が回ってきた我々は、手続きを一瞬で済ませ、2階に上がり、空港税を支払うカウンターまでやって来た。ここでガイドはおもむろに750元の入った封筒を3つ、両替用と称して、僕に渡そうとし始めた。事前にガイドブックを通じて、元が余って円に再両替するには、正規の両替商が発行する両替証明書が必要だと知っていたので、そんなことを度外視したガイドの行動に不信感を抱き、疑ってかかることにした。

「750元は日本円でいくらですか」「1万円です」「・・・。じゃあ、1元が13円ちょいという計算ですね」「平均レートはそんなものです」「でも両替証明書がないと再両替ができませんが」「中国に証明書を発行するような両替商は居ません」「お金は本物ですか」「本物です」仮に偽札でも「ニセモノです」と答えるはずがなく、我ながら最後の質問は愚問だなと思いながらも、空港税を支払わないとにっちもさっちも行かないので、しょうがなく2万円分だけ、つまり封筒2つ分だけ両替することにした。

※なお、帰国時に知り合ったアメリカ人から、実際には両替証明書があっても再両替できないことを聞いた。振りかえって思うに、おそらくガイドの行動は両替時間の短縮のためのサービスだったのだろう。疑ってすみませんでした。

空港税を支払ったら、次はいよいよ手荷物検査である。ガイドが言うには「いいですか、中国の空港では4つのものが必要です。それは、パスポート、チケット、ボーディングパス、空港税支払証明書」とのこと。4つの必需品を用意して、ガイドと別れの握手を交わした後、一人で手続きをあっさりと済ませ、ガイドに手を振って別れた。ここからは本当に独りである。