走らない人が走り始めるとき (11)

家に入れなくなった人 (2020年10月23日)

最近、在宅勤務が多いんですが、通勤していた頃の通勤時間をそのままランニングに充てております。というわけで10月に入って一気に涼しくなって走りやすくなったことに気を良くして今日も多摩川河川敷を10キロ。

ところが5キロ走って折り返したあたりでえらいことに気づいた。「しししししまった。家のカギを持ってくるの忘れたーっ」。そうなんである。子どもたちは3人とも学校に行き、妻が出勤の準備をしている間に家を出てきたのだが、ランニング中に妻は家のカギをかけて外出する。だからいつもカギをランニングパンツに入れて走り始めるのに今日はそれをすっかり忘れていた。

運の悪いことに雨まで降り始めてくるではないか。妻はもう出勤した後だから連絡しても手遅れだ。しかたない。子どもたちは3人ともカギを持って学校に行ってるから学校に取りに行くしかない。

しかし中学校に取りに行ったら長女はマジで嫌がるだろうなあ。ランニングウェア姿の汗臭いオヤジが教室に家のカギが無いから貸してくれと言いに来るなんて彼女にとって考えうる限り最悪の事態だろう。いかんいかん。絶対にダメだ。

というわけで雨の中をランニングの延長で走って小学校へ向かった。校門には警備員の若いお兄さんが立っている。

「すみません、ちょっとここの小学校に通っている娘に用事がありまして」
「入校の許可証をお持ちですか?」
「それがその、家に忘れてきちゃいまして」
「念のため、お子さんのお名前をお聞きしても?」
「はい。3年1組の・・・」

というやりとりでなんとか通していただく。

校内に入ってランニングシューズを脱ぎ、恐る恐る職員室へ向かおうとすると廊下の向こうから先生らしき女性がやって来る。事情を話すと、

「あらー、ちょうど今授業が始まったところなんですよ。でもまだ間に合いますよ、ちょこっと教室の扉を開けて華ちゃんを呼んでもらえれば」
「いやいや。いやいやいや。そういうわけにもいきません」

こんなくだらない用事で授業妨害するわけにはいかん。

「次の休み時間まで待たせていただきます」
「あら、そうですか」

というわけで雨と汗に濡れたランニングウェアのまま建物の外に所在なく立ち尽くして50分間待つ。だんだん寒くなってきたのでたまに屈伸運動とかをする。
50分経ってチャイムが鳴り、同時に三女の教室に行って先生に声をかけると、

「あら?藤形さん、忘れ物をお届けいただいたんですか?」
「あ、いやその。むしろ私が忘れ物をした側でして・・・。家のカギを華から受け取りたいのですがいいですか?」
「あははは。どうぞどうぞ。呼びますね」。

クラスのちびっ子達が「だれだれだれ?」「華ちゃんのお父さんだって」「へえええ」「え?だれだれ?」などと口々に言っている中を待つのは実に恥ずかしい。

ということで苦労の末カギをゲットし、自宅に戻ってそのカード式のカギを玄関のドアにかざすと、「当たり前だ」と言わんばかりにすんなりとカギが開いた。
いやーしかし間抜けだった。こんなミスをすると後始末がこんなに大変になるということを思い知らされた。もう絶対カギを忘れてランニングに出かけちゃいかんです。