虚々実々新聞 第7号 (03/13/1997)

緊急速報: O塚部長、虚々実々新聞に激怒 (1)

3月12日午前、『虚々実々新聞』第6号が大手通信会社W歌山支店営業部長であるO塚氏のもとに渡り、業務が一時中断する騒ぎとなっていたことが明らかになった。

3月12日午前8時15分ごろ、O塚氏はいつものように営業部に出社した。

「その日はええ天気やった。せやけどな、何かが違ってたんや」

O塚氏は眉間のシワもあらわに事件当日を回想する。部内を見渡すと、とあるパソコン端末のそばに『W歌山支店虚々実々新聞 第6号』と書かれた文書を見いだした。内容を一読して事の重大さに気づいた彼は、即座にこの文書を放置した者を特定するよう側近に指示、ほどなくして営業部営業企画担当のH女史の名前が浮かび上がった。

「あの日の朝、メールをチェックしていると、あの新聞が配信されていました。すごく面白かったのでプリントアウトして、ついうっかりそのままにしてしまったんです。まさかこんな騒ぎになるとは」

とH女史は当惑を隠せない。

だが、H女史のとった行動はあまりにも軽率だったというほかないだろう。この事件によって営業部の業務は約3時間にわたり中断、これにより、支店全体で控えめに見積もっても1,900万円程度の被害が出たものと推定される (虚々実々リサーチ社調べ)。しかしそうした数字以上に支店内では深刻な影響が出ており、とりわけ営業部の士気の低下は「目を覆わんばかり」(ある営業部員)だという。

O塚部長を座長に急遽編成された特別調査委員会は、事件関係者の洗い出しに目下全力を挙げている模様であり、『虚々実々新聞第6号』上に登場する「N田氏」と名前の酷似した社員に対して、既に事情聴取が行われたとの未確認の情報もある。

渦中のH女史は事件発覚直後に行われた記者会見の席上で、

「心労で10キロ 痩せました」

と涙ながらに告白。この発言に対し、会見後ある記者が「それほど痩せてアレなのか」などと記者仲間を相手に軽口を叩いていたが、数日後、その記者と思われる変死体が紀ノ川下流で発見されるなど、謎が謎を呼ぶ、まさに『Xファイル』顔負けの展開となっている。

なお、問題となった『虚々実々新聞』の編集長である藤形正敬氏 (24) は、

「事実関係を確認中であり、今のところはまだ何もコメントできる段階ではない。ただ、弊紙に登場する人物と名前が偶然似ているW歌山支店営業部員たちに対する取り調べが行われているというのが事実であるとすれば、甚だ遺憾である」

と語る。

また、これに関連してZ電通関西地方本部は、「事態を注意深く見守りたい」とのコメントを発表した。しかし春闘が正念場を迎えているいま、今回の事件が同社労使間の賃上げ闘争にも少なからぬ影響を与えることは間違いないだろう。