走らない人が走り始めるとき (7)

走るフォームについて考える人 (2020年1月)

ランニングを始めて2ヶ月あまり経ち、「いったい自分は正しい走り方をしているんだろうか?」という疑念が日に日に大きくなってきていた。第1章でも書いたとおり、そもそも小さい頃からまともに走れた経験が無いのだ。一回くらいそういうのを詳しい人から教えてもらう機会があればいいなー、と思ってた12月のある日にネットで「ケガをしない走り方教室」というのを見つけた。サブ3ランナーで鍼灸医をしてらっしゃる柳さんという方が講師の、1時間程度のイベントで3,000円。たまたま1月の会場は駒沢公園だから近いしちょうどいい、と申し込んでみた。

イベント当日。せっかくだから会場までランニングしようと30分前に自宅を出て、自由が丘、八雲あたりを抜けて4キロほど走ると駒沢公園に到着。公園内のジム施設の入り口付近に集合する。この日の参加者は、私の年齢プラスマイナス10歳の幅くらいのおよそ10人だった。しかし一回の講習で平均10人集まれば売上3万円。月4回で12万円。ほとんど何のコストもかかっていないだろうからなかなか良いビジネスだなあと感心する。柳さん、やるなー。

軽くストレッチをした後、まずはまっすぐ立つことを教えてもらう。走る時だけでなく、日常生活の中でもずっとお腹を1センチ程度引っ込ませておくこと(ドローイング、というそうです)で、走る時に重要な腹筋を鍛えられると。次に肩甲骨を意識して胸を開き、肩の力を抜いて腕を自然に体側に下ろす。実を言うとこのうちドローイングだけは腹が出てきたのを隠すために以前から実践していたので違和感がなかった。

最後に丹田(ヘソから数センチ下にある箇所)を意識し、その丹田を、足先をまっすぐ上に伸ばしたあたりまで前に持っていくと、当然ながら前に倒れそうになるのでそのまま自然に脚を前に出して走り始める。走り始めたら腕をしっかり振る。体側よりも後ろの振りが大切で、そのことによって脚も勝手に動くからそのまま走り続けられる、というわけ。脚で蹴ることは意識せず、腕の振りだけを意識すれば良い。

というようなお話を聞きながら、実際にみんなで軽く走ってみる。

柳さんの話が続く。この走り方だと、土踏まずのすぐ前あたり(つま先でもかかとでもなく真ん中)で着地するようになっている。かかとから着地はケガの元になるから要注意。それとこの走り方で必要なのはお尻と前腿の2つの筋肉である。これらは人間の体の中で1番目と2番目に大きな筋肉なんだけれど、しんどい作業は大きい筋肉にやらせるのが一番で、後ろ腿やふくらはぎのような小さい筋肉は痛めやすいのでなるべく使わないようにする。というわけで皆さんお尻と前腿をスクワットと空気椅子で鍛えましょう。はい、他に普段思ってる疑問などあればどんどんどうぞー、みたいな感じで質疑応答コーナーになり、ちょうど1時間経ってイベントが終了。

最近ランニングの最中に自分の自然なフォームってどうなんだろうと悩み始めていた私にとってはとても有意義な1時間で、3,000円の価値は十分あった。何よりも気をつけるべき点が数点くらいに絞られている点が良い。これなら普段ひとりで走る時にも混乱せずに意識できる。もう10年くらい前のこと、一向に上達しない自分のゴルフに業を煮やしてレッスンを受けに行ったことがあったが、その時の先生がいくつもいくつも改善ポイントを言うもんだから頭が混乱してますますドツボにハマったことを思い出す。

そんなわけで、しばらくはこの柳さんのおっしゃったことをできるだけ忠実に守って走ってみようと思ったのであった。