会社を休んでチベットへ行こう (1)

プロローグ

2005年2月10日の夜1時過ぎ(したがって、正確には11日)、僕は会社からタクシーで帰りながら、翌朝から出発するチベット旅行に思いを馳せていた。アパートに到着すると、あり得ないはずの光景を目にした。出勤前にゴミ置き場に捨てたはずのゴミ袋が収集されずに残っているのである。

「えっ。これやと可燃ゴミを帰国まで家に保管せなあかんやん」。他にもいくつかのゴミが放置されているのを見ながら、深夜ブツクサ独りごちていた僕は、よく見ると、自分のゴミにだけ何か紙が貼られていることに気が付いた。曰く「あなたのゴミ袋に不燃ゴミが入っていたせいで、みんなのゴミが収集されず、迷惑を被りました。今後二度とないようにしてください。家主」。「オ、オレのせい?」。普段可燃・不燃の分別に気をつけながらゴミを出す僕は、原因がよく分からないまま、しかしどうしようもないので、自分のゴミだけを持って部屋に帰った。もっとも、さすがに他人のゴミまで面倒を見る気にはなれない。料理をしない僕のゴミならまだしも、生ゴミが入っているかもしれない他人のものまで1週間も部屋に置いておく勇気がなかった。そもそも原因が本当に僕なのかも得心が行かない。

部屋に入った僕は、早速大家に手紙を書いた。「分別にはいつも気を付けているので、正直原因がよく分かりません。みなさんに迷惑をかけることは不本意なので、今後の対策のためにも何が問題だったのかを教えて頂けると助かります」といった内容である。先日も音がうるさいと怒られたばかりなので、退去させられるのではないかとの不安の中、引っ越して来たばかりなので、追い出される訳にはいかないと思い、ゴミの注意書きを晒されていた非礼にもめげず、丁重に努めた。

風呂に入り、荷物の用意を整えた後、書き上げた手紙を封筒に入れて大家のドアポストに投函したのが午前3時前。これでようやくチベットに旅立てるとホッとしたものの、そうそう、オレのドアポストにも喫緊の手紙が来ているかもしれないと思い、確認したところ、大家のメモ書きが入っていた。

「本日ある人のせいでゴミが搬出されませんでした。各自、自分のゴミを持ち帰ってください」。

3時間後に起床できるかの不安を抱えているところに、これでもかと言わんばかりの攻撃を喰らい、正直かなりブルーが入ったが、まぁいい、これでみんなのゴミは心配しなくていいのだと思い直してようやく就寝した。