虚々実々新聞 第13号 (11/14/1998)

文明の衝突 ~憎しみの皿ウドン

大手通信会社のK西支社E業部社員が、行きつけの中華料理店において女性店員と骨肉の争いを繰り広げていることが虚々実々新聞社の調べで明らかになった。

争いの舞台となっているのは地下鉄T町線T町四丁目駅近くの中華料理店「悶悶」 (仮名)。

調べによるとK西支社E業部E業推進担当主査のY村氏、同じく担当のY崎氏、F形氏の三人は、ほぼ十日に一度の割合で仕事帰りに同店に立ち寄って夕食をとっているが、お勘定の際、三人の代金を別々に支払いたい社員側と、三人の代金をまとめて支払ってほしい店員側との意見が鋭く対立。

野村沙知代似の女性店員 (以下サッチーと略す) は、三人が食事を終えて席を立ちレジのほうへ向かおうとすると、間髪入れず「(支払いは) 一緒でいいね」と牽制、F形社員が「いや。別々でお願いします」と言うと、「えっ。別々なの」などとあからさまな迷惑顔をみせるなど、事態はイラク情勢に匹敵する一触即発の状況にある。

女性店員サッチーは本紙のインタビューに対し、

「「別々でお願いします」だって?ふん。よくもまあそんなタワゴトをいけしゃあしゃあと。笑わせるんじゃないわよ。たかだか一人1,000円じゃない。単価の低い客相手にそこまでやってられません。こっちは忙しいんだからね」

と怒りを露わにする。

こうした険悪な関係にもかかわらず、三人はこの店自慢の皿ウドンの魅力にあらがえず定期的に店を利用、その度に上記のようなやりとりが繰り返されており、両者の溝は日を追うごとにとめどもなく深まっている模様。

最近ではサッチーは三人の顔を完全に憶えてしまい、店に入った瞬間から店内の雰囲気は絶望的なまでに陰惨なものとなり、続くテーブルの選択から注文、お冷やや料理の給仕、さらにお冷やのお代わりに至るまで、互いの神経を極限まですり減らす水面下での消耗戦が続いている。

事態の渦中にいるY村主査は本紙の取材に対して、

「日本国内には中華料理店が無数に存在するが、これらはすべて中華思想拡大の最前線基地であると私は認識している。この争いの背景にあるのは日本と中国の文化的価値観の相違である。表層部分だけを捉えて、われわれの行動を大人げないなどと批判する声も一部であるようだが、以上の観点からこうした批判はまったく的外れであることが理解できると思う」

「各人が別々に代金を支払うという優れて民主的な決済行為にかくのごとき困難が伴うことは、「悶悶」の硬直的、官僚的構造を如実に示すものであり、ひいては中国の民主改革路線の停滞を象徴するものだ」

と同店を痛烈に批判。

いまや事態は「一中華料理店の店員」対「サラリーマン」という構図を大きく逸脱し、「中華思想」対「日本型民主主義」という壮大なイデオロギー闘争へと姿を変えつつある。